-以下、備忘録

ご笑覧下さい。笑えねーけど。

-10月23日

1023 睡眠不足で意識朦朧としているのは言わずもがな。とは言え本日はなかなかにヘビーな一日。午前中に内科、夕方から心療内科ダブルヘッダー。長女は一人で学校に行けるので問題なし。一先ず、妻の愛情たっぷりレタス、ミニトマトブロッコリー、ナッツ等の入ったサラダとトーストを食し、服薬。次女と親子三人で家を出て保育園に彼女を預けると、その足で妻と一緒に内科へと向かう。この病院は、此方に越してきてから家族皆お世話になりっ放しなので、気心が知れている。主治医はお爺ちゃんだが元気溌剌、話し言葉から察するに、チャキチャキの江戸っ子といった風情。8時45分受付開始なので、9時頃に到着すれば余裕かなと思えども、既に先客多数。前の人が矢鱈手続きにもたつくのを苛々しながら待つ。非常に宜しくない。やはり心に余裕が無い。漸く前の人の手続きが終了し、診察券と保険証を提出。暫し待合スペースにて待つ。しかし、眠い。こんなにも身体は休息を欲しているというのに、何故こんなにも眠れないのか。国営放送が今日も遠い国で始まった戦争を伝えていた。空爆で我が子を亡くし、泣き叫ぶ母親の姿。その悲しみや怒りは私の限られた想像力を容易く越えていくだろう。割と、最悪の結果も起こり得るだろう事を、日々想定しながら生きているつもりだし(悲観主義者という訳でもないが)、今回の件もそうだ。しかし、時に現実は想像力を軽々と越えていく、いや"自分"という存在の、限られた経験を礎に構築された甘っちょろい"想像力"とやらを、いとも容易く打ち砕く。逆説的だが、だからこそ我々は想像(夢想)するのだろう。立ちはだかる"現実"という壁を時に乗り越え、或いは打ち砕こうと努める為に。

 存外早く名前を呼ばれ、妻と共に診察室へと入室。お爺ちゃん先生に、これまでの経緯と血液検査の必要性を説明する。つい先日繰り返したばかりなので、淀みなく口からでる言葉の数々。後、下腹部に膨満感があって苦しいんです。そりゃあ、ストレスだよ。大体、身体の不調は胃腸に出るんだ。昔からよく言うだろ、"腸が煮えくりかえる"とか"腹が立つ"とか。それくらい知っとるわ。慣用表現は身体の部位に纏わる物が多いんっすよね、しかし"ストレス"の一言で片付けていいもんなのか? 些か適当すぎんか??……等と口にする事は無論無い。門外漢は口を挟まず、ただただ頷くのみ。精密に検査するなら結果出るまで1週間くらいかかるよ。いえ簡単な結果でいいので本日中に欲しいです。分かった、じゃ採血しましょ。先に採尿してね。という訳で一時退室。つい先日健診受けたばかりなので、手順は手慣れたもの。しかし、採尿時、マジマジとカップ内の我が尿を見れば、明らかに色が濃い。よろしくない結果が出るだろう事を瞬時に理解する。待ち時間は30分もなかっただろうか。名前を呼ばれ再入室。想定通り、γーGPT、ALT、AST、どれも安定のK点超え。後は標準値の範囲内とはいえ、赤血球値にもマーカーが引かれている。二週間後にもう一度採血しましょう、今度は肝炎などの可能性も含めて精密に検査して貰うから。きちんとした結果が出るのに一週間程度はかかるかな。次回は、夕食後は、水以外何も摂らずに午前中に来てね。暴飲暴食は控える事。とりあえずお薬二週間分出しとくから。漢方と、気持ちをスッキリさせる薬、後、下剤ね。お腹スッキリするから。眠れない時は頓服薬飲んで。そんな感じで受診終了。所要時間は1時間程度だったか。お会計を済ませ薬局で薬を調合して貰い、一旦帰宅。薬を飲むために昼食を摂り、服薬。心療内科の受診に備え、暫し休憩。当然昼寝(というか気絶)する余裕無し。

 どうする今日もバスで行く?という妻の声に、今日歩いて行っていいかな、多分行けそうな気がする、と返事。そんな訳で余裕を持って早めに家を出る。寝不足で朦朧としているのは確かなのだが、明らかに一昨日よりはちゃんとしている。午前中もそうだったが、案外まともに歩けている。胸を張って、背筋を伸ばし、前を向いて歩く事を努める。俯いていたつもりはない。うむ、何だかイケそうだ。思わず、この前よりはマシかも、そう妻に声を掛ける。良かったじゃん。真っ直ぐにのびた路を天高く上った太陽が目映く照らし出していた。結局、予約時間よりも30分以上早く現地到着。スタバを見つけた妻が、限定のなんちゃらかんちゃら(正式名称失念)が飲みたいから、買って来るけど何か要る?と訊いて来たので、アイスコーヒー(流石にアイスコーヒーに凝った名前ついてないよね?)をお願いする。スタバを利用するなんて何億年ぶりだろうか。彼女が購入する姿を、駅前広場のベンチに腰掛け待ちつつ、眺める。すぐ傍にiPhoneで自撮りする女子高生二人組(時間早いね、試験期間中? それともダルくてフケた??)と、それを物珍しいのか、下心ありなのか、近くで凝視する、お世辞にも小綺麗とは言えないおっさん。かく言う自分だって、大差ないのだが。程なく妻が戻って来たのでお礼を言ってコーヒーを受け取り、払うよ、幾らだった?と訊くも、お代は結構との事。素直にお言葉に甘える事にする。通り過ぎる無数の人々に目を遣りながら、暫し無言でコーヒーを飲む。きっちりとしたスーツ姿な早足のリーマン、マシンガンの様にジャーゴンを繰り出し、会話もどきを展開する大学生と思しき集団、恐らくはホームレスだろう、ヨロヨロと歩く禿散らかした初老、時間とお金を持て余してると言わんばかりの、お上品そうなマダムの一団……なーに、一皮むけば大差ない。人間の数だけ地獄は存在する。そうこうする内に時間が迫って来たので、カップを捨てに一旦一緒にスタバへと向かう。よりにもよって、ダストボックス前で仁王立ちになったオバさんが店員さんに絡んでいる。いつもと味違くない、どうなってるの? ほら、ここにも地獄。てめえは矢鱈と喧しい評論家気取りのラーメンブロガー(あくまでも比喩)か何かかよ、と内心つっこみを入れる。気を遣ってくれた別の店員さんがカップを受け取って下さり(流石は研修と接客には定評のある天下のスターバックス様、よう知らんけど)、心療内科へと向かう。受付にて、血液検査の結果を提出するよう求められ、診察券、保険証と併せて提出。先ずはカウンセリングから。診察とは異なり、カウンセリングの場合は待たされる事なく時間通りに始まると、事前に聞いていたので、受付終了後待っていると、直ぐに名前が呼ばれ、○○号室にお入り下さい、とのアナウンス。妻共々入室。狭い部屋で申し訳ないですけれど、どうぞお掛け下さい、と促され、二人並んで着席。マスクをした女性の心理士さん。勿論情報として表情を100%窺い知る事は出来ないが垂れ目で柔和な印象、瞳の色がやや青みがかっている。カラコンでも入れているのだろうか。淀みなくこれまでの経緯と現状(不眠、意識混濁、腹部膨満感、倦怠感、無気力さ、人間関係、或いは向き合い方、将来を含めた諸々の不安と、それに伴う深夜~早朝にかけての徘徊癖……等々)を伝える。安心感を与える為のテクニックであるにせよ、カルテに細かく情報を記入しつつも、傾聴の姿勢を崩さずに、適宜相槌を打ち、心地よい返答をしてくれる事は非常に有難い。詳細は省くが、ホワイトボードを使って"Must思考"と"Want思考"なる説明を受ける。義務教育は一応受けたので、単語から大体の内容は想像はついたが、"~しなくてはいけない、しなくてはならない"という気持ちがこれまで先行していて、体調を崩してしまったのではないでしょうか。"やりたい事、欲望"がまるで湧かない、というお話でしたが、昨日、ご飯をお替わりした。食欲はある、というお話が聞けて、とても嬉しいです。焦らなくてもよいので、少しずつ時間をかけて自分のしたい事を見つけて、気持ちを取り戻して行きましょう。なので、今は"~してはいけない"、"~は止めておこう"と無理に考えなくても良いです。例えば"~は食べない方がいい"と余り考えすぎず、我慢しすぎずに、食べたいと思う物は食べるとかですね……といった内容(目茶苦茶端折ったが)。ご助言痛み入ります。それが出来ないので苦労しているのですが、でもきっと、そんな日がやって来る事を切に願っております、と思いながら、時間になる。もしまたカウンセリングが必要でしたら、お会計時に受付でお伝え下さい、との事。お礼を言って退室しつつ、次回もカウンセリングを受けようと既に決意を固める。自分の事が自分ではよく分からん。第三者の視点は重要だ。ふと気になって妻に訊く。俺、ちゃんと理路整然と話せてた? 話、回りくどくなかった?? 大丈夫、ちゃんとしていたよ。その一言の有り難み。

 診察を待つ間、たまった未読メールを開く(10月20日以降、代表は妻とLINEで遣り取りして、私の現状を確認をしている筈だ)。従って、代表から直接、私に連絡して来る事はない。てな訳で、別の人間からの一番、開くのに気が進まなかったメールを開く。恐らくはLINEを既読スルーしてしまった(前述した通り、返信する心の余裕が無かった)ので、改めてメールにて通達してきた筈だ。一通り目を通す。ご丁寧に過去のメール内容もツリー表示出来る様になっているので、遡って過去の(当時、代表の忠告もあり、敢えて読まなかった)メールにも目を通す。長い。余りにも長い(自分のこの記録は棚上げしつつ)。ちょっとした短編小説ではないか。幸いな事に速読に関しては多少なりとも自負はある。幸いかどうかは措いとくが、目を通し終えた。嘆息する。多少の事実誤認には目を瞑ろう(私のこの記録でさえ、記憶違いは間違いなくある)。自身のこれまでの言動に非がない訳では全くない(顔も性格も口も、総じて悪いので)。失望させてしまうのもむべなるかな。今までもそうだったし、今回の件も含め、きっとこれからも何らかの形で、私に関わる人間に期待を抱かせ、挙げ句失望させてしまう事は起こるだろう。だが、この内容を、今、このタイミングで送らなくてはならないのか。まだ、この先自分がどうなってしまうのか皆目見当もつかないのに。そこまで可及的速やかに伝えなくてはならないお気持ちなのか。いや、業務連絡の一環に過ぎないのだろうな。ちょっとトイレに行ってくるね、と妻が言う。行っといれ、と反射的に返事。その程度の親父ギャグを言えるだけの余裕は、まだあるようだ。或いは、空元気か。兎も角だ、アフォリズムっぽく述べるのならば、人間には二種類いる。"減点方式で他人を評価する人間"と"加点方式で他人を評価する人間"だ。勿論、実際の所、その両者の狭間で我々は常に揺らいでいる。だが、長文メールの主は、どちらかと言えば前者に相当するだろう。今回の件で自分の株は更に下落、何だったら大地をぶち抜いてブラジルまで到達したかもしれない(と記していて、ふと気になりググったけど、正確には日本の真裏はブラジルじゃないらしいすっよ)。まあ、考えても詮無き事だ。とまれ、妻が戻って来てからさして時間が掛からぬ内に名前が呼ばれ、妻共々指定の診察室へと入室。前回とは違う医師。最早、台本の読み合わせでもするかの様に、再度これまでの経緯と現状を説明。睡眠導入剤も試しに服用したが、まるで眠れないと訴える。同席している女医さん(?)が、猛スピードでキーボードを叩いていく。無機質且つ乾いた入力音。成る程ー、今出しているのがやや弱めのものなので、少し強いお薬出しておきますねー。後、簡単なテストをして貰いますので、戻ったら受付にお声がけ下さい。てな訳であっという間に診察終了。お大事にどうぞー、という女医さん(?)の声が虚しく響く。受付に戻りテストの旨を伝えると、二種類のクリップボード(及び用紙)を渡される。前者は心理テストなどでよく見かける質問事項に五段階で答えるもの、後者は(先入観を与えかねないので名前は伏せるが、多分ググれば直ぐにヒットすると思う)、とある絵を描くもの。面倒くせー。特に後者、圧倒的に面倒くせー! 迷う事無く前者から取り掛かる。"今の自分に自信をもてない" 、"将来が不安で仕方がない"……、"よくあてはまる"に決まってんだろうが、でなきゃ今此処にいねえよ。"反日感情を持っていますか"、"狂っているのは俺か、世界か"、"海は死にますか 山は死にますか 風はどうですか 空もそうですか"……質問、何だっていいじゃねえか。内心独りごちながら、何とか全項目に回答(頭が回っていない所為か、質問の意味を理解するのに時間を要する問いが数点あり)。さて、問題はお絵描きだ。小学校の通知表で図工の成績が万年、5段階評価で3だった(歳がバレるな)、後、高校生の時分(理由は何だったか忘れたけど)、美術教師を激怒させ、ぶん殴られた挙げ句、中間か期末考査か忘れたが、赤点ギリギリ(つまり最低点)の成績つけられた経験を持つ、俺の画力をなめんなよ。加えて、寝不足も祟ってか相も変わらず指に力が入らない、鉛筆を握る手を震わせながら、何とか描ききったそれは、"ヘタウマ"の次元を超越する、いや"ヘタウマ"なる言葉の定義を揺るがす出来だった。賭けてもいいが、次女(四歳)の方が絶対に上手い。まあ、今の自分にやれる事はやった。双方耳を揃えて受付に提出し、後はいつも通りの手順。外に出れば大分傾いた西日が街を照らし出し、猥雑な街にポツリポツリとネオンが点り始めている。長く伸びた無数の人々の影。世界は変わらず存在していて、それをどう感じるかは詰まる所、己の心情の反映に過ぎない。少しは美しく思えていたのだろうか、その時分の私は。ちょっと今日も歩いて帰りたいんだけど、無理しないで電車かバスで一人先に帰っていてもいいよ。土曜日の時よりは少しマシな気がする。路も分かるし。そう告げる。分かった、気をつけてね、と妻の返事。なるべく早く戻るね。そちらもお気をつけて、と声を掛け、僕らは手を振り合い、別れる。彼女が駅構内に吸い込まれるのを見送り、踵を返しゆっくりと歩き出す。胸を張り、前を向いて。時に空を見上げて。飛行機雲がキャンパスに、自分のそれよりも遙かに儚くも美しい二本線を描き、そうしてキャンパスは、次第に橙から藍へと変わっていく。