-以下、備忘録

ご笑覧下さい。笑えねーけど。

-10月21日

10月21日(土) 恐らく前日の21時頃には気絶でもするかのように眠りについたのだろう。目覚めると、日付が変わる直前。既に家人は皆眠りにつき家は静まりかえっている。眠ろう、とにかく今は眠ろう。ゼロがいい、ゼロになろう、もう一回。いつものようにラジオ代わりとしてiPhoneYouTubeを再生する。深く考えずに、某お笑いコンビの"傑作漫才選 睡眠用/作業用"をチョイス。3時間以上あるようだし、流しっぱなしにしていれば、そのうち眠りにつけるだろう、と瞳を閉じる……寝れねー! マジ、ハンパねぇ! 大きく伸びをしてみたり、寝返りを幾度となく繰り返してみたり、うつ伏せになったり、胎児の様に丸まってみたり、思いっきり開脚してみたり、深呼吸してみたり、果ては羊を数えたり……、必死の努力を嘲笑うかのように、耳元では延々と漫才が続く(なら停止しろや)。忍びねぇな。構わんよ。2時頃だっただろうか、遂に二度寝を諦め、明け方まで起きていようと決心する。ダイニングチェアに腰掛け、iPhoneに目を遣るも集中力が続かない。直ぐに画面を閉じる。何もやりたい事がない。思いつかない。冷蔵庫の鈍く微かな振動音が矢鱈と気に障る。ダメだ、座っていられない。そもそもじっとしていられない。落ち着かない。立ち上がり、リビング、ダイニング間(距離にして10mもないだろう)を暫し徘徊する。奇行種か、俺は。……次第に閉塞感、いや息苦しさを感じ始める。外の空気が吸いたい、もっと空気を! 寝間着姿(Tシャツ+短パン)にサンダルを突っかけて、よろよろと外へと飛び出す。断っておくが此処は真夏の湘南ではない。深夜3時過ぎのスラム街。そんなラフな格好でも、心地よく感じられる夜風。10月も後半だというのに。地球も俺も何処へと向かっているのか。地球の事は判らんが、現状、俺に向かう場所(未来)はない。弱気な性(さが)と裏腹なままに、身体疼いてる。なので、近所のコンビニというコンビニを転々とする。フラフラと。街頭に引き寄せられる蛾と何ら変わりない。有難い(?)事に、コンビニ大手三社は近所に一通り揃っている。なんなら、+αだってあるさ。かくして、コンビニからコンビニへとあてどなく彷徨い、近所を一周。所要時間としては10分といったところか。そっと家に戻り、リビングチェアに腰掛け一息つくも、また直ぐに息苦しさが襲って来る。いや、はっきりと言おう。"不安"だ。自分が、家族が、未来がどうなってしまうのか、皆目見当がつかない、茫漠とした"不安"。"後悔"だ。信頼を築きあげるのには膨大な時間が必要で、喪うのは一瞬。今から一体どう回復できるというのか。顔向けなど出来よう筈もない、そんな"後悔"。

 再び夜へと飛び出し、光を求め、あてどなく彷徨う……と記せば響きは良いが、端から見れば紛うことなき不審者である。警官が通りかかった日にゃあ、職質一直線。それくらいの自覚はある。ところでおまわりさーん!紛失した鍵(10月14~15日)、まだ見つからないっすかー? ……四度目の深夜徘徊から戻り、ドアを開けると、寝間着姿の妻が仁王立ちになり、開口一番「こんな時間に、何してんの?」と問うてくる。そりゃそうだ。……眠れなくて、何だか落ち着かなくて、ウロウロしてた」「明日早いんだから少しは静かにしてよ。とりあえずちゃんと横になって」「……すみません」 寝室に戻る妻をぼんやりと見送り、自分もリビングへと戻り、再び横になる。目を閉じる。そして、入眠との格闘は果てしなく続く。際限なきトライアル&エラー。心なしか右脇腹や背中がたまにチクチクするような気がして、ついつい寝返りの頻度が高くなる。今年の健診結果出てないけど、そういや去年の検診でもγーGPT、ALT、AST、総じて数値ヤバかったしな。肝臓や腎臓、下手すりゃ膵臓なども含め、あちこち相当悪いかもしれない。そんな事を考え始めると、余計気になって、天下のGoogle様で様々に検索をかける。実は以前から、具体的には母の死を契機として、色々と自分の身体は気にしていて、こうした類いの検索は頻繁にしていた。代表は「"背中 痛み"で検索かけたら、そりゃあ大体悪い結果しか出て来ないですからねえ」と笑っていたが。次第に空が白んで来る。その光が今や、大層疎ましく感じられる。結果、まんじりともせず。

 前日の宣言通り、妻が帰宅するまで長女と留守番。とはいえ意識は朦朧として何もする気になれず、通常運行のグッタリ具合。無論、食欲絶無。彼女はリビングでiPadに夢中、ヘッドホンを装着し、時折爆笑している。どうやら父の出る幕はなさそうだと、そそくさと寝室へと移動。ふかふかのベッドに倒れ込む。嗚呼、俺も数年まではこのベッドで家族四人身を寄せ合って眠っていたのだ。子ども二人、同じポージングで並んで寝ているのを妻と一緒に笑ったりしていたっけ……、等と考えていたかどうか定かではないが、気づけば小一時間ほど気絶していた。再びリビングに戻ると、長女は"人間をダメにするソファ(呼称復活!)"に沈み込み読書中だった。本好きな点は明確に父親似だが、肝腎の父と来たら、今やこの体たらくだ。そもそも最近じゃろくすっぽ読書する時間や気力もないぜ、やれやれ、等と思いながら、ダイニングチェアに腰掛ける。黙々と読書に耽る彼女を見遣り、改めて思った。やりたい事が何一つとして思い浮かばない(前述した深夜徘徊も自ら望んで行ったわけではない)。いや、絶対に、無数の欲望が、己の内に眠っている筈なのだ。マジな話、世界のほんの片鱗で良い。まだまだ、様々な事を見たい、知りたい、出会って、感じてみたい。加齢による感性、気力、体力の衰えは致し方ない。だが、そうした要素を差っ引いたとしても、これまで通りの暮らしを続けていれば、自ずと無数の欲望は生じる筈だ。無論、諸々の負の感情もまた付随していく。だが、そうした負の感情すら反転させ活力へと変えていく。生と欲望とは決して切り離せないのだと、元気があれば何でも出来るのだと、今の自分は正に身を以て感じている。閑話休題。遙か昔、大学生の時分にも同様の事があった。恐らく私が一番愛した女性から別れを告げられた時、自分は、ほぼほぼ壊れた。三日三晩ろくすっぽ食べる事も眠る事も出来ず、会う人間会う人間からその変わりように驚かれた。大袈裟ではなく、少し強い風が吹いただけで身体がふらついた。精神はふらつくどころの話ではない。大時化、船酔い待ったなし。独りでじっとしている事に耐えきれず、心情を洗いざらい誰彼構わずぶちまけたくて堪らず、無断で友人宅に押しかけ、「それはどうなの?」と諭されたり、後輩の女子に講堂の広場前で延々とお辛みをぶちまけ、挙げ句「寒くなって来たんで、そろそろ帰りません?」と言われたり、飲み会で一度会っただけの人間(殆ど他人同然)にたまたま構内で出くわし、無理矢理飲みに誘った挙げ句、家に半ば強引に押しかけ夜通し語り合ったり(相手にすりゃあいい迷惑だ)……、こうしたエピソードは枚挙に暇がないが、確実に今の自分が(ゆうても、今の自分だってぶっ壊れているのだが)当時の自分に向かって言える事は、この一言に尽きる。"小僧、ソープ、じゃなかった、心療内科に行け!" 前日(10月20日)私が車中で代表に申し上げた"様々な要因がこれまであったにせよ、水に喩えるならば自分という器の内でギリギリ表面張力によって保たれていた感情、最後の一滴で一気に決壊してしまったんですよねー!!(コピペ)"なる文句は、今にして思えば正鵠を射ていなかった。再び話を過去に戻すと、彼女から別れを切り出され、ぶっ壊れた私は結局、後輩に誘われるがまま一緒にラーメンを食べに行き、帰宅後泥のように眠った。半日は寝ていたのではあるまいか。そうして目覚めた時、日当たりの悪いアパート一階にあった自室には光が満ちていた(真向かいの家の窓に反射する光の関係で、そうした時間帯があった)。その事に意味を見い出そうとするのは簡単だし、ただの偶然に過ぎぬと片付ける事も容易だ。単なる事象の一つに過ぎない。だが、僅かな時間であれ、光に溢れていたあの部屋は美しかった。その後、私は、フィジカル面に於いては、みるみる回復を果たしていった。もりもり喰らい、腕立て含め自己流の筋トレをした。自転車であてどもなく都内を走り回った(ひたすら明治通りを走るとか)。狭い自室に戻りめそめそ泣き、或いは布団に横たわって音楽を聴いてはまた泣いた。なるべく馬鹿馬鹿しい(海賊達が所狭しと暴れ回るような)映画を独り観に行き、暗闇の中で光を見つめ、それなりに笑った。そうして、数日過ぎた後、この脆弱なメンタルを誤魔化すために、思い切り、半ば無理矢理、身体を動かす事を決意した。友人にバイトを紹介して貰い(今にして思えばよく面接受かったなと思うが、恐らく担当して下さった副店長が同情してくれたのだろう)、シフトを入れまくると、馬車馬が如く働きまくった。そうする事で、私は精神的苦痛から目を逸らし、余計な事を極力考えないようにしたのだ。そして(たかがバイトにせよ)、長時間労働に耐えうる健康な肉体とヴァイタリティを当時の私は有していた。端的に言えば、(馬鹿で)若くて元気だったのだ。水こそ溢れてはしまったが、"身体"という名の器そのものは、その頃はまだ、思いの外強固だった。今の私はそうではない。粉々ではないにせよ、経年劣化した器自体にヒビが入り、水が少しずつ、だが、今この瞬間にも確実に、漏れ出している。

 11時が近づき、長女が「パパ、カレー貰いに行って来るね」と私に声を掛ける。「一人でも大丈夫?」「うん、大丈夫」「分かった、気をつけてね」「うん」 業務連絡にも似た簡潔な遣り取り。長女と会話を交わす機会はめっきり減った。そもそも私の仕事柄、普段顔を合わす機会が少ないという事もあるのだが、それだけが理由でもない。彼女は彼女なりに色々と苦悩している事も重々承知している。黙って彼女は出て行く。扉の閉まる音、微かに聞こえる廊下を駆ける足音。不意に思った。これではダメだ。子ども一人、ご飯を取りに行かせるなんてあまりにも親として無責任すぎる。変わり映えせぬTシャツ+短パンにサンダル姿で外に飛び出し、階段を駆け下りる。それだけでフラフラする。エントランスを抜け、娘の姿を探せば、見つけた! 既に信号を渡り終え優に100m以上先を歩いている。なんちゅう足の速さよ。流石に走る気力はなく、競歩スタイル(?)で後を追う。ええぃ、早う信号青になれぃ! そうこうしている内に角を突き当たりの角を曲がり、彼女の姿は私の視界から消える。まあ良い、行き先は分かっている。信号が青になる。彼女の歩きそうな道を、自分なりの速度MAXにて歩いて追うも、姿は見当たらず、結局こども食堂前にて彼女に落ち合う。「パパ?」少し驚いた様子だ。どうも手順が分からず徒歩に暮れているように見えたので、「奥に行って、お姉さんかおばさんに声かけてご覧。後は、名簿に自分の名前と年齢と住所書いたら良いと思うよ」「分かった」 そう返事をして、彼女は奥へと入っていく。「すみませーん」と声を上げている。すぐに女性が出て来たのでどうやら上手くいきそうだ。暫く、ぼんやりと待っていると、長女が戻って来る。「頼めた?」「うん、大丈夫」 そのまま双方無言のまま、カレーの準備が出来るのを待つ。やがておばさんが、ビニール袋を両手に提げ出て来た。一方の袋にはカレー、もう一方にはどうやら結構な量のお菓子が入っているようだ。「はい、どうぞ。気をつけて持って帰ってね」「ありがとうございます」 彼女が袋を受け取り、親子二人頭を下げて帰路に着く。「パパが持つよ」「うん」 彼女から袋を受け取る。「ひょっとして、公園の近くの道から行った?」「うん、それが一番近いから」「そっか、だから追っかけても全然姿見えなかったんだ」 そうしてまた暫し会話が途切れ、思い切って私は重い口を開く。回らない頭をフル回転させて。「のんちゃん(長女の仮名)」「ん?」「のんちゃんも色々大変だと思うんだけど」「……」「パパも今、ちょっと大変なんだ」「うん」「ごめんね」「うん」「だから、もし何か辛い事があったら、遠慮なく思ってる事言ってね。別に無理して言わなくてもいいけど。言いにくかったら、ママにでもいいから」「わかった」 もう父親と手を繋いで歩くようなお年頃でもない(ご家庭にもよるでしょうが)。微妙な距離はあるにせよ、短時間にせよ、親子二人並んで歩いた。本当に、久しぶりに。

 落ち着かぬまま、たまに近所徘徊を繰り返しながら妻の帰りを待つも、なかなか帰って来ず、次第に不安が募り始める。確か病院の予約時間16時半からって言ってなかったっけ? もう15時回ってるんだけど。義母がそれくらいの時間に来るって行ってなかったっけ? いらっしゃる気配全然ないんだけど。遂にLINEを妻に送信。記録上では15:36。「今日16時半で間違いありませんか」 ご丁寧に泣き顔のスタンプまでつけて。いや、ご愁傷様か。程なくして、妻が次女を連れて帰宅。間髪入れずに義母も到着。既に出発の準備は済んでいたので、義母に「申し訳ありませんが、娘達をよろしくお願いします」と伝え、そのまま妻と二人で出発する。「どうするタクシーで行く? でも、確か病院って西口だから面倒くさいんだよね」「いや、大丈夫そう。バスでとりあえず東口まで行って、そっから構内を突っ切ろう」「本当に大丈夫、歩けそう?」「うん、昼ものんちゃん追っかけてカレー貰って来たし」 そうした遣り取りをしながら最寄りの停留所に到着すると、タイミングよくバスが二台連続して到着。どう見たって、後者が圧倒的に乗客数が少ない。迷わずそちらを選択。とはいえ、座る余地なく、吊革を握る。如実に手に力が入らない。バスが揺れる度に手を離し、倒れ込んでしまうのではないかと怯えながら、何とか終点の東口に到着。吊革や手摺りにお掴まり下さい。至極ご尤も。かくして降り立った休日のターミナル駅前は人、人、人……また人、の形を模した欲望が、有象無象が、蠢いている、等と考えている余裕などまるでない。酔いそうだ。ただでさえ、休日にごったがえす場所へとわざわざ赴くなんて行為は愚かだと、常日頃から思っていた人間なのに、この人の波をかきわけ、いや、人の壁をすり抜け、ふらふら彷徨い歩くなど、脇に妻がついてくれていなければ、まず無理だったに違いない。リアル"ぶつかりおじさん"爆誕必至である。とまれ、目的地への経路自体は、私自身が通勤で頻繁に利用する駅という事もあり、把握済み。迷う事なく病院へと到着。

 初めての心療内科。驚くべきは診察を待つ患者数の多さよ。休日である事を鑑みても、それなりの広さがあろう待合スペースの八割以上が埋まっている状態。一見誰も彼も普通そうなのだが、そりゃあそうだ。悪事を犯す度にいちいち高笑いする判りやすい悪党なんて、映画でしかお目に掛かった事ないからな。"Slaughter is the best medicine."ってか。"この狂った世界で、誰一人としてまともになんて生きられっこない"ってか。実に陳腐。が、まあ、そうかもしれないな。"同病相憐れむ"たぁ、よく言ったもんだ……等と考えている余裕など、無論その時にはない。受付にて予約時間と名前を告げ、保険証を提出。空いているソファを見つけ二人並んで座り、受付で渡された所定用紙に必要事項を記入する。相変わらず、指に力が手が入らず、ペンを握る手が震える。何とか書き終えるも、我ながら呆れるほどのへなちょこ文字。ほんの数週間前の人間と同一人物の筆跡とは到底思えず。予約時間を迎えるも名前を呼ばれる気配無し。その間、妻と色々と話をする。昨日、どんな連絡が妻にあったのか、ここ最近自分が感じていた諸々の事、この先自分はどうやって生きていけば良いのか。「先方にも迷惑かけちゃうから、やっぱり昨日は無理せず休んだ方が良かったね」「やな事あったら、溜め込まないでどんどん他人巻き込んでグチグチ文句言ってけばいいんだよ。私の職場なんてそんなんばっかだよ」「狡いするのも仕方ないよ。人それぞれ、おうちの事情とか色々あるんでしょ。どうせその人の人生なんだから放っておけばいいんじゃない? お給料は貰えるんだし」 妻はほぼ聞き役に徹してくれた。実にありがたかった。そうこうしている内に、予定時刻を15分ほどオーバーして漸く名前を呼ばれる。妻と二人で診察室へ入室。腰掛けるよう促され、お話が聞かれたくないようなら、奥様には一旦退室してお一人でお話を伺うことも出来ますが、と告げられる。迷うことなく同席して欲しいと伝え、受診開始。これまでの経緯、今不安で仕方がない事、食欲不振、不眠……、時折妻にもフォローされながら、諸々説明していく。挙げ句の果てには「このままでは自分、本当にマズいと思うので入院して治療して頂きたいです(切実)」とまで口にする。同席している女医さん(らしき人)が、(恐らくは)私の話の内容をキーボード入力していく。実はひたすら"REDRUM”って打ってるだけだったりしてな。「そこまでのレベルでは全くないと思いますよ」と私の言葉に応えながら、医師も状況を色々整理しているらしく(業務形態がいまいちピンと来ていなかったようだ)、最終的に「ああ、なるほど。そういう事でしたか。分かりました」と合点がいった模様。想定以上に時間が経過したようで、ドアがノックされ、看護師さんから次の患者さんの診療時間が迫っている旨告げられる。とりあえず、次回診察までに一度内科で血液検査をして、検査結果を持参して下さい、で、次回の予約はいつにしましょうか、という話になり、迷う事なく、なるべく早い方が良いですと即答。毎食後に飲む精神安定剤("心と体の調子をよくする薬です"だなんて、なんてふわっとした表記。優しいね)と、就寝前に飲む睡眠導入剤を処方して貰う。正式名称は割愛。その後、別室にて栄養カウンセラー(正式名称失念)なる温和そうなおじ様から食事についてのアドバイスなどを受けるも、当方の活動限界間近。脳内にて繰り広げられるは"KAERITAI"のシュプレヒコール。いつ暴動が起きてもおかしくない有様。大丈夫、きちんと妻が聞いてくれている筈……と思いつつ、自分なりの理解としてはクッキーやパスタのような小麦粉を使った食物は極力避け、タンパク質や栄養価の高い物(鶏肉、ブロッコリー、ナッツなど)を摂取するように心がけて下さいね。でも我慢しすぎも禁物なので、食べたいと思った物を時には食べてみて下さい、的な? ママー、こんな感じで大体合ってるかなあ? まあ、こんなん記してる時点(某日の23時頃)で、家人皆就寝しているのですが。その後待合スペースに腰掛け会計を待つ間に、ふと気になって妻に尋ねる。「ちゃんと、理路整然と話せてたかな? 支離滅裂じゃなかった??」「うん、大丈夫だったよ。でも少し話が長いかもね」 胸に去来する代表からの言葉。「だから、先に結論から話すようにしたらいいんじゃない。順序立てて色々な事を一度に説明しようとしないで」 そんな会話をしていると名前が呼ばれ、受付にて、次回受診予定をいつにしますかとのお話。次女のお迎えの関係などもあり、結果、1023日(月)14時半に決定。カウンセリングも迷わず希望。自動精算機で会計を済ませ、薬局にて薬を処方、序でにお薬手帳も作成して貰う。かなり時間が経ったように感じられたが、iPhoneを確認すればまだ17時半を少し回った位だった。「どうやって帰る? 電車??」と妻が訊いて来る。「何か歩きたい気分だな。最近ろくに運動してないし。多少疲れた方が眠れるかもしれない。それに、息苦しい。外の空気が吸いたい。別に無理しないでいいよ。一人でも帰れるから」「いいよ、じゃあ、歩こう」 そうして僕らは歩き出す。昔長女を保育園まで送った後、幾度となく歩いた道だ。最短ルートは分かっている。が、妻は私の思い描いていたのとは違った道を歩み出す。まあ、いいか。多少遠回りにはなるけれど、それでも大体の道は分かる。少しでも多く歩いた方がいい運動になるかもだ。足取りはフラフラ、頭はクラクラだが。線路を一本隔てただけで街の様相は一変する。行きの景色とはまるで異なったそれ。高校の日本史教師がしきりに口にしていた"悪所"なる単語をふと思い出す。無数の、剥き出しになった欲望の影が、幾つものどぎついネオン灯に照らし出され、万華鏡の様に煌めいている。自分から歩く事を提案したものの、やはり足元が覚束ない。危うく黒服のお兄さんに衝突しそうになるところを寸前で回避。そうして気づけば夫婦共々、ホテル街の入り組んだ狭い路地へと入り込んでいた。まあ、妻に従って着いて行けば、大体この辺りに到達するだろう事も見当はついていた。大丈夫、適当に歩いていけば直ぐに見知った道へと出る。とはいえ、端から見た俺らってどう見えてんだろうな。休憩所を探して彷徨う、不倫中(しがないスーパーの店長+家計を支える為、週でレジ打ちのパートに出た人妻)のカップリングってな具合か、いや、路地を彷徨い歩く今の俺、袋小路のどん詰まりじゃねえか……等とどうでも良い事を考える。にしても、二人きりでこんなにも多くの事を、真剣に話したのはいつぶりだろうか。ライフサイクルの違う二人。朝は大体妻の方が慌ただしく、朝食の準備やら、娘の髪を結んだりやらしている内に、時間となり一足先に出社。私はというと、下の娘を保育園に送った後、家に戻り、洗濯物や洗い物を片付け、午前中は比較的優雅に過ごし(最近はそうでもなかったが)、昼過ぎに出社、仕事を終え夜遅く帰宅した時には、既に皆就寝、そんな日々の連続。土日も自分はここ数ヶ月もの間、ちょいちょいと仕事の予定を入れ、その間妻は家事含め、二人の子どもの面倒をみてくれていた。家族全員一緒にいられるのなんて、土日の夜くらいだろうか。その場にしたって、さして真剣な会話が繰り広げられる訳ではない。食事が終われば家族各々が思い思いの時間を過ごして……。なので、ここぞとばかりに僕らは様々な話をした。特に夏の間、多忙だった自分がきちんと把握し切れていなかった長女の状況や彼女の今後の事、次女が抱えている、とある問題について、来年辺りから時間の遣り繰りどうしよっか(どうにかするしかないのだが)、とか、妻が産後一年間本当に心に余裕がなく、流石に鬱になるかと思ったという話やら。そんな事を話しながら歩き続ける内にとっぷりと日は暮れ、家の近所にある悪名高き"開かずの踏切"に近づく。カンカンカンカンカンカンカンカン……実に耳障りな踏切の警報音。よくもまあ、誰も彼も、突っ立って待っていられるものだ。魂でも抜かれたのか?(他人様に言えた義理でもないのだが) ま、どうせ直ぐに別の電車がやって来て、当分は開かないだろうから地下道から行くか、と思い歩みを進めると、何という事だろう、轟音を響かせ電車が通り過ぎた後、奇跡的に踏切が開いた! うん、今日は何だか良い事ありそう!! 二人は歩むよ、コンクリート・ロード。どこまでもつづいてるコンクリート・ロード。