-以下、備忘録

ご笑覧下さい。笑えねーけど。

-10月20日

10月20日(金) THE JUDGEMENT DAY. 早起きし、山積している課題を一つでも多く片付けなければ、あれほどそう思っていたにも関わらず、目覚めたのはいつもとほぼ変わらぬ6時過ぎ。1時間以内には家人が起き出して来る。そうすればあっという間に慌ただしくなり、集中して課題をやっつけるのは困難と判断。ならばいつもより早く現場に行った方が遙かにマシな筈だ。てなわけでプランB。先に洗濯物を片付ける事にする。洗濯機を回し、干し終えたのが恐らく7時前。家人が続々起き出して来る。基本一日二食なので、朝のこの時間帯、私が何かを食する事はない。国営放送のアナウンサーの声、懸命に想いを伝えようと絶えず発せられる下の子の声と、優しく応えながらも早く食べようねと促す妻の声。なんで前の日に学校の準備しとかないのー? 今更今日の提出物出されても、ママもう時間ないんだけど! ねえ、返事は!? はーい、ママ、ごめんなさいー! 縦も、加えて(本人は大層気にしている)横もすっかり大きくなり、妻の背丈に今にも並びそうな勢いで日々成長している娘の受け答えは、お年頃ってな具合。加えておざなり。そうした諸々全てをBGMに、いやノイズだと感じながら、黙々と、着々と、出勤準備を調える。内心大いに焦り、苛立ちながら。

 前日、代表から本日の"現場"についての可否の見通しについて連絡頂けると有難いとなる旨のLINEが入っていた事を思い出し、"現場"には予定通り行く旨、及び心療内科については1023(月の10時に予約し、受診後出社する予定である旨、併せて返信。この時はまだこんな大事になると想定していなかった(という時点でヤバいのだが)。娘を園へと送り、その足で現場へ直行する事を即決。時間帯的に誰も来ていないだろうと判断し、思い切って徒歩で向かう事にした。なに、幾度となくやって来た事。道順は頭に入っている。所要時間約40分。最近欠勤がちでろくすっぽ出歩いていなかったので、良い運動にもなるだろうし、気分転換の効果も望めるかもしれない。大丈夫、まだ慌てるような時間じゃない。Let's 有酸素運動。Viva la ウォーキング。10時前頃に現着。既に"鉄人("現場"担当の別名、というか私が勝手に読んでいるだけ。身体が目茶苦茶丈夫で、且つ年間推定360日は稼働しているから)"が到着しているかと思いきや、しっかりと施錠されている。これはちと想定外。"鉄人"の事だから、てっきり毎日9時頃には現着しているものだとばかり思い込んでいた。やむを得ず、暫し現場周辺を徘徊し、最終的に某コーヒーチェーン店に飛び込んで、時間を潰す。資料にざっと目を通し、赤を入れようとするも内容がまるで頭に入って来ない。さして難解なそれではないにも関わらず。明るく広々とした店内(常套句)。その割にこぢんまりとした二人掛け用のテーブル。余裕かまして談笑する店員達。新人と思しき可愛らしい女子アルバイトへの教育に余念無し。ここに長居は無用だ。解読を諦め、大分水っぽくなったコーヒーを飲む事に終始する。今度、機会があったら文庫本片手に、優雅な時間を過ごしに来る事にするよ。"今度"があればの話だが。11時過ぎ頃に再度"現場"を訪問。解錠されていた。そっと中に入ると"鉄人"は来客応対中。隣室の業務室に入り、いざ本格的に課題に着手する。タイムリミットは約5時間。とりあえず本日分に関しては確実にやり遂げなければならない。壁越しに微かに漏れ聞こえる"鉄人"と来客との遣り取り。何故だか自分の事を言われているような気がする。それも高(好)評価ではなさそうだ。まあ、そうだよな。そもそもが現職、自分のやりたくない仕事三本の指に入ってたもんな。結局、自分が親父と同類みたいになるようでさ……、いやいや、んなこたぁどうでもいい。優先順位、とにかく優先順位をつけろ。多少の遅延や犠牲はやむを得ない。それはきちんと謝罪をした上で、改めて成果物をお届けすればよい。そこまで緊急性がある物でもない筈だ。とにかく身体を動かせ、一文字でも多く何かを書け……、恐らくそんな事を考えていた筈だ。やがて事務の方がやって来たので部屋を移動する。遅々として作業は進展していないが、ここから本腰を入れていかなくては……、クズ政治家のクソ答弁のようだが、その後の記憶がほぼすっぽりと抜け落ちている。覚えているのは"鉄人"に椅子に座らされ、「奥様に連絡しますので、携帯の暗証番号を入力して貰えますか」と言われ、入力した事。LINEアプリの起動に矢鱈と手間取った事。「大丈夫です」と立ち上がろうとすると「立たないで下さい! そこにじっと座っていて下さい!!」と制止された事。そのまま判決を待つ被告人の様に、言われるがまま、項垂れたまま、じっと座っていた事。パンツが酷い有様だった事。どれ程の時間が経っただろう。いきなり弊社代表が現れた事。「向こうのお部屋にあるのはそちら分の資料ですね?」と"鉄人"に確認された事。「これから車で自宅まで送るので、一先ず今日は帰りましょう」と代表が仰り、リュックを持って下さった事。後で妻から聞いて判ったのだが、"鉄人"が私のLINEから妻や、妻の実家、不動産屋(詳細は割愛)、そして弊社代表に連絡して下さったらしく、結果、代表が仕事の合間を縫って急遽私を迎えに来て下さったそうだ。履歴では諸々の連絡は16時前。なので恐らく17時前には現場を後にしたのだと思われる。

 車中で、代表は非常に私を気遣ってくれて色々と他愛のない話をして下さった、筈だ。最早何を話したかすら殆ど覚えていない。「乗っている車、昔からですか。かっこいいっすね-」くらいの事は言った、ような気がする。今夏良く歩いていた見慣れた街並みが、車窓からでは妙に新鮮に思えた。街の灯が少しずつ増えていく。そんな事を考えていた、ような気がする。近くの交差点で降ろして貰うつもりが、結局自宅前まで送って貰う事に(代表からしてみれば、危なっかしくて降ろすに降ろせなかっただろうが)。自宅前のコンビニ駐車場に一旦停車してもらい、そこで思い切って「少しだけお話してもよいですか」と、私の方から切り出す。一体、何を考えていたのか。恐らく代表としてはいい迷惑、且つ私の話の内容は支離滅裂だっただろう。しかし、どうしても言いたい、言っておかなければならない事が幾つかあった。代表や"鉄人"への感謝の想い、その信頼を裏切ってしまった事、大事な時期であるにも関わらず、顧客に対し満足のいくサービスが提供できない事の悔しさ、申し訳なさ、不甲斐なさ。先日言われたとおり、自分はやはり"社会的弱者"なのだという事、人間関係の悩み、家族にも感謝しきれないのに、余りにも父親として頼りない事、その遣り切れなさ。自分がどんどん壊れていく実感があるという事、今後どうしていけば良いのかという事。なんか、身体が動かんのですよねー! 多分、様々な要因がこれまであったにせよ、水に喩えるならば自分という器の内でギリギリ表面張力によって保たれていた感情、最後の一滴で一気に決壊してしまったんですよねー!! 恥ずかしい事に、最後の方は嗚咽していた。大のおっさんが。どう考えたって、ヤバい。だが、代表はきちんと最後まで話を聞いて下さり、私が落ち着くのを待ってだろうか。「次の仕事に向かわないと行けない時間なので、そろそろ失礼しなくては」と、わざわざ目と鼻の先にある家のエントランスまで、車で送って下さった。そこで妻が待っていた。二人で深々とお辞儀をして、車を見送り、抱えられるようにして我が家に戻る。シャワーで身体を清め、"廃人ソファ"に沈み込む。声を絞り出して、これまでの経緯を色々と訊く。迷惑を掛けた事を謝る。「眠れないならソファベッド買おうか、色々検索してるんだ」と妻が言う。数日前からずっと言われていた事だ。金の無駄だと私が購入を渋っていたのだが。頷く。「明日、私、午前中仕事だから、次女は保育園に預けるね。後、こども食堂の日だから長女にはカレー貰って来るように言うね。パパの分もいる?」 首を横に振る。食欲は絶無。「心療内科、月曜の午前中に予約してたけど、サイト見たら明日の夕方でも予約できそう。私が帰って来てから、一緒に行く? その間、子ども達はママ(義母)に来て貰って、見てて貰うから」 頷く。はっきりと。